美術家名や都市などブログ内を検索してね

2019年1月23日水曜日

2019年イタリア美術の旅:トスカーナ州プラート

トスカーナの旅で最初に訪問するのはピストイアかプラートです。
みんなが行きたい方でいいんだけど、よく分からないというのでプラートを紹介します。

Cattedrale, Prato

プラートはミラーノから電車で、フィレンツェで乗り換え2時間20分ほどにあります。イタリアの中世都市はほとんどがそうですが、駅と町は離れていますが歩けない距離ではありません。


これもイタリアの多くの都市と同じで源は大変古く、旧石器時代から村の痕跡があります。ですが私にとってプラートといえばそれは「プラートの商人」の街です。


この本は中世史に興味のある者なら誰でも絶賛するに違いない貴重な本なので、この本の売れない時代に日本でも8出版社が共同で再販するほど素晴らしいものです。私は初版が出た時夢中で読みました。これは表紙にあるフランチェスコ・ダティーニという14世紀の商人が残したメモ(覚書という)や手紙、請求書や契約書などから当時の生活を生き生きと再現したもので、実に詳細で説得力があります。


写真はフランスで大成功を収めたフランチェスコが故郷に錦を飾るために建てた家です。今見れば、観光の対象になるとは思えないでしょうが、14世紀というルネサンスの入り口の時代に、王侯貴族でもない者(しかも彼は幼くして黒死病で両親を失い、孤児でした!)の家とは信じ難い巨大で豪華なものでした。ここにはこの本の種となったダティーニ文書と呼ばれるものが保存されています。


町の真ん中には彼の記念碑もあります。絶対に知らない人なら、王様か学者と思いますがウルトラけち臭い商人です。中庭に花を植えたフランチェスコは後で後悔します。食物になる実のなる木を植えるべきだった、花なんて無駄なものを植えて貴族の真似をして馬鹿だった、と。この広場は落ち着いた良い広場で、書店があった(今は知らない)ので私は「プラートの商人」のイタリア語版オリジナルを買おうとしましたが、品切れで入荷を持っているところだと言われ非常に残念に思ったのを覚えています。でもその書店はカフェと一体となった素敵な本屋で、様々な本を物色しながらカフェを飲んで癒されました。当時、日本には未だこういうお店はありませんでした。

Castello di Federico 2

なので私にとってはフランチェスコ・ダティーニとフィリッポ・リッピの街ですが、冷静に見れば、フリードリッヒ二世の要塞(今は野外コンサートなど行われる)とかフィレンツェ・ルネサンス3代創始者の一人ドナテッロ(後はブルネッレスキとマザッチョ)が作った司教座聖堂の角に取り付けられた、有名な「聖母マリアの腹帯顕示台」とか、今ではイタリアにおける中国文化の一大中心地とか、色々あります。

Donatello

これは本当に有名なものです。誰でも、整然とした美しい司教座聖堂のファサードにいきなりくっついたこれは何?と思うでしょう。聖遺物は中世において現在の我々には全く想像できない重要なものでした。何よりも奇跡を行う力があるのですが、聖遺物にも人気とか奇跡度が高いとか、色々あります。最高の聖遺物になるはずだった、イエス・キリストと聖母マリアは昇天してしまったので御聖体がありません。が、ここプラートには聖母が昇天する時に使徒たちへ向けて、はらはらと落としてくれたイエスを孕んだ時の腹帯があるのです。マリアは何十年も腹帯を持ち歩いていたのでしょうか、とかそういうことはどうでもいいことです。そして普段はもったいつけてしまいこまれている腹帯が年に一度、御披露となります。これはそのための台なのです。ここから、はらりっとします。当然ですが、本物のドナテッロ作品は博物館に保存されています。

Museo del Tessuto,Prato

聖遺物が布だというのも何か象徴的です。1950年代からプラートは繊維工場の労働者を増やすために、外国人労働者に頼るようになります。最初は南部イタリア人だったのが次第に中国人になり、今では中国系イタリア人最大の街になりました。我が国の政治家も真面目に将来を考えるべきです。で、とにかく繊維博物館があります。いろんな時代の豪華なファッションも見れるし、行ってみたいです。

考古学系の博物館は、イタリアのある程度の街ならどこにでもあります。私が好きなのは当然中世美術を中心に集めている「法務裁判官の館」とか元聖ドメニコ修道院の絵画館、司教座聖堂博物館などです。

Museo di Palazzo Pretorio,Prato

時間がなかったら普通はここを訪れます。中世には行政の中心だった建物です。

Museo di Pittura Murale in San Domenico, Prato

初めて訪ねた時にはこの修道院が最も印象的でした。フィリッポ・リッピの初期のヘッタクソな絵とかがあって、誰もいない絵画館で笑いながら回ったのを覚えています。(おかしい人と思われたかな?)一泊しかできないのが残念です。もしみんながモンテカティーニテルメに行かなくてもいいというなら、ここに2泊して町中の博物館に入りたいです。13個もある上、聖堂があります。

il Turista.infoから写真を拝借

フリードリッヒ二世の要塞の右に見えるのはブルネッレスキの聖堂です。美術好きの人、特に建築好きの人なら一目瞭然ですが、ミラノの聖母マリアS.M.della Grazie(レオナルドの最後の審判しか興味のない人もいますが・・・)やフィレンツェのパッツィ家礼拝堂などとそっくりの、彼らしい集中構造の聖堂です。


このようにイタリアの特にトスカーナの中世都市は非常に豊かで、街の規模に対して見るべきものが物凄くあります。美術史や歴史の勉強をしていれば喜びは何倍にも増すでしょう。今から世界史、イタリア紙、中世史や西洋美術史など読んでおくことをお勧めします。


さらに市壁で覆われていた痕跡があちこちにあり、門や橋も残っています。プラートは平野ですが、川の水が澄んでいたからこそ、世界的な織物の町として発展できたのだし、聖母の腹帯を一目見たいと大勢の巡礼がこの橋を渡ったのです。

やっぱり1日じゃもったいないね。でもそんなこと言ってるとほんと動けなくなるから、急ぎすぎず、でも多くを見られるような旅を目指します。ローマ人やルネサンス人のように、バランスが大切でしょうか。


0 件のコメント:

コメントを投稿