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2018年1月6日土曜日

モリーゼ:最果ての野蛮人の聖堂

野蛮人=バルバリとは古代、ギリシャ人やローマ人が、自分たちよりも文明の遅れた北方の人たちを主に指して使った言葉です。私たち日本人には無関係だから、野蛮人と書くのは本当はおかしな話です。欧米主導当然主義からくる言葉ですから。でも、現在、世界は西欧文明なしには考えられない状態で、特に西洋美術や歴史を勉強する者にとって、バルバリという言葉を知らなければ、話になりません。どの本にも出てくるからね。

さて、イタリアという国は現在の意味で国家となったのは1860~70年にかけてで、非常に新しい国です。しかしイタリア半島の歴史は、ペルシャなどの人類の文明の発祥地ほど古くはないにしろ、ヨーロッパの中では最古を誇り、それが古代ローマやルネサンスを通じて近代につながっているという点で、最も重要だし、複雑で奥深く、芸術的には圧倒的に見るべき価値のあるものが多い魅力的な国です。

Santuario di Castelpetroso

私はイタリア中を旅して回っていますが、20州の中で唯一行っていないのがモリーゼ州です。確かにドナテッロやラッファエッロ、超絶技巧のバロックなどの大芸術を見に行く場所ではありません。写真はゴシック様式の聖堂ですが、ゴシックとは「ゴート人(野蛮人)風」という意味ですから、フィレンツェ・ルネサンスの文化人から見たら全然ダメな聖堂なのですが、現代人のごく普通の感覚からすると、とても美しくはないでしょうか?ゴシックは北方生まれですから、雪に溶け込んで絵のようです。私は、しょっちゅう「絵のようだ」という表現を使いますが、それは美しい風景というような意味です。モリーゼのこの聖堂は実は聖堂ではなくサントゥアーリオ(聖所かな)と言って、いわゆる普通の教会とは違ったものです。多くの場合、そこには御出現(聖母、イエス、聖人らが信徒に現れる)があります。

ゴシックは、野蛮人という言葉とは裏腹に、とても規則的な形を基本に作られています。それに対して、野蛮人と呼ばれたロンゴバルド人は、洗練を極めたギリシャ、ローマの彫刻のふんだんにあるイタリアへやって来て自分たちの聖堂を建てたら、こんなになっちゃいましたーっ!っていうような、最高の聖堂が下の写真です。何を言ってるのか、分からない人は、ま、授業に出てもらうと嬉しいのですが・・。


S.Maria della Strada

この最高のルネッタ(半円形の建築部分で、入り口の上部)は、私の憧れの聖堂のものです。これぞロンゴバルド芸術の力強さ、というか奔放さ、というか下手だとか拙いとか、そんなものは吹き飛ぶ、勢いのある美術です。行きにくい場所に、ポツンと建っていて、ファサード(建築物正面)やところどころに、天然としか言いようのない彫り物がしてあります。見たくてたまりません!イタリア語ですが写真が見られます。

     

ロンゴバルド美術を見ると、いつも思うのですが、もっと上手な人はいなかったのだろうか?と。ロンゴバルド美術にも、もちろん色々あって、チヴィダーレの女性像は、きちんと整っています。あれは後期の作品でゴシック色が感じられますが、なぜか私にはあまり魅力的ではありません。ルッカやベネヴェントには野生的でありながらも、芸術的な線と形態の作品が見受けられます。でもモリーゼの作品はどれも本気で素人臭く、当時の状況を想像したくなります。逆に素人臭い方が民衆の好みや考えは反映されやすいので面白い面もあります。大芸術家というものは常に時代を超越しているので。


もっといっぱいアップしたいのですが、みんなが好きとも限らないし、これでやめますね。髪の毛が額縁の柄になっています。作者は、きっとこの思いつきに満足だったに違いありません。首と体の連結が損なわれているし、足なんかチョコ〜んとしてしまっていますが、これは髪の毛額のアイディアを優先したからだと思います。先に挙げたルネッタといい、中世騎士道時代の好みが伺えて動物が活躍します。なぜって地中海系の古典芸術では、完全な人体を神の似姿と捉えるため、動物は無価値になり無視に近くなってしまうので、古典やルネサンスでは動物は楽しめませんが、ロンゴバルドでは思いっきり楽しめるのです。


San Giorgio Martire

これはまた別の聖堂です。殉教聖人に捧げられたロマネスク聖堂ですが、先に挙げた「路上の聖母マリア」聖堂よりさらに、過激に破天荒になっています。ここではもう動物が主役どころか、人体表現はありません!実はこのルネッタはこの聖堂の中ではまとまった方で、もっと構図も何もあったもんではない、さらに迫力の浮き彫りもあるのです。とても西洋美術とは思えぬ自由さです。きっと昔は他の地域にもあったのが、偉そうな正統派の美術に作り変えられてしまったのかもしれません。こういったヨーロッパ美術の横道から、すっかり道を外れた、愉しい聖堂がここモリーゼにはまだまだ残っています。


San Vincenzo al Volturno

これまた絵のような、大修道院跡。修道院の聖堂のみ極一部が残り、後は遺跡のようになっていて、そこからかつての繁栄ぶりを推し量ることができます。

旅について:もしモリーゼに行きたいと思ってくれる人がいれば、ぜひ行きたいと思います。数人まとまれば車をチャーターできるので。モリーゼの場合はナポリと組み合わせるとかした方がいいかなとも思います。大芸術と、その正反対の民衆美術、大都会の喧騒と自然と中世の小道の両方が比較できるから。



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