イタリアは世界文化遺産登録数世界一の国ですが、文化遺産というのは、自然遺産や歴史遺産に対して、主に芸術的な要素の強いもので建築物が中心です。例えば自然遺産は文字通り、天然の自然の風景が独特でよく保存されているというもので、日本は必死に富士山を登録しました。歴史遺産というものは、忘れてはならない歴史という意味を込め、必ずしも見て楽しいものではありません。ユダヤ人を閉じ込めたゲットーやナチのアウシュビッツ、日本の原爆ドームなどが典型的な例です。
マテーラの場合、イタリアでは珍しく、芸術、文化というより、自然と歴史的価値が認められたと言えます。
マテーラの洞窟住居と洞窟教会と日本では言うようですが、イタリアでは Sassi サッシと言います。
遠方から中心方向を撮影
しかし、芸術的な写真とか抽象絵画を製作したくなるような、やはり独特の美しさです。サッシ地区は結構広く、普通のツアーではバスで近くに降り、一番有名な洞窟聖堂へ入って終わり、と言うのが一般的ですが、本当はせめて一泊し、町中をぐるぐる回ってみたいものです。洞窟聖堂はたくさんあり、年代や、フレスコの描き方、建築の仕方に時代や様式の差が随分とあります。
Madonna de Idris
一番有名な聖堂は写真のもので、岩の頂点に十字架が屹立している感じがいかにも感動的で、どうしても行きたくなります。中も結構フレスコが残っていて時間がなければこれ一つでも仕方ないでしょう。でも私の「マテーラ石像聖堂」と言う本には何十もの聖堂が紹介されていて、区域別に数日滞在しなければ見られない印象を受けます。
Peccato Originale
8〜10世紀に作られた「原罪」聖堂のフレスコです。色々な様式がある中で、私には一番印象的で、ギリシャからイコノクラスムを逃げてきた修道士たちが残した、平面的で装飾的、抽象的な伝統を感じさせます。自然を無視した可愛いお花、どうなってるのかわからない被り物や衣装など、ルネサンスやバロックには見られない、とても大らかなフレスコです。
San Pietro Barisano
この聖堂のように、入り口ファサードだけは結構普通の建造物のように作ってあるところも数箇所あります。中は洞窟を掘って作ったもので、地上に建てていく建築物とは全く違います。普段歩かない人には、マテーラは凹凸だらけですから息を切らしながら、歩くことになるかも知れません。この聖堂は、岩の頂点の十字架を目指して曲がりながら登っていく途中、いきなり現れるのですが、シンプルな中にもデザイン性のある南部バロック様式の純粋なファサードに、強い印象を受けました。
マテーラではどれを一つと数えたらいいか分かりませんが、穴は無数に穿たれているので、洞穴のような聖堂も100個どころではありません。どうやってたどり着いたか、理解しかねる場所にある洞窟にフレスコの跡があると、孤高の修道士の姿を浮かべます。どれほど貧しかったか、想像を絶するものがあるでしょう。それでも現在の貧しい人々より、彼らは幸せだったかも知れません。貧しさは天へ近づく印だったのだから。
旅の話:マテーラへ行くんなら絶対一泊します。すっかり綺麗になっていますが、洞窟住居ホテルがあるので、サッシのど真ん中で、数々の映画のシーンを思い浮かべながら(マテーラは何度も映画の舞台になっています。去年撮影された「ワンダーウーマン」でも使われたし、「パーソンズ・オブ・インタレスト」で有名になったジム・カヴィーゼルがイエスの最後の24時間を演じた「パッション」、リメイクがたくさんある「ベンハー」、日本では知られていませんが、「ニュー・シネマ・パラダイス」の監督も好んでここを使っているなど、イタリア映画には数本あります。)不思議な街の歴史(今回は書きませんでしたが、ここは近代に随分と変化があった街です)に思いを馳せながら、時には頭を空っぽにしたりもしてゆっくり村を巡るのです。美味しいレストランも知ってるしね。
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