非常に面白かった!
素晴らしい。圧倒的な天才芸術家ベルニーニを、美術史的な視点での作品解説ではなく人生と時代を、末息子ドメニコやローマのゴシップ誌などを資料として描く。大芸術家らしくルイ14世、八人の教皇たちのような歴史を形成する権力者たちとの関係はそのまま西洋史の知識に繋がる。が家族や愛人など個人的な問題はリアルで彼の性格を慮ることができる。問題は、英語で書かれた初めてのベルニーニ伝ということで、イタリア語の個人名が誤っている事が多々あり気になった。作品は読む前に知っておくべき。
読書メーター使ってます。読書整理にお勧め。
この世界一有名な建造物、ヴァチカンの聖ペテロとパウロのバジリカも彼が内外共に大きく関わっている。実は塔があったのを知っている人がどれだけいるだろうか。今も聖堂入り口にその痕跡を見る事ができる。
彼が華々しくローマの芸術界にデビューしたこの作品には、実はかなり弟子の手が入っている。職人技が圧倒的なだけではなく、大勢を使う美術監督としても、問題はあれども非常な才能があった。その点はラッファエッロと似ている。
この女性はベルニーニの弟子の妻で愛人。弟に彼女を寝取られたベルニーニは怒り心頭に達し、彼女の顔を切りつけさせる(弟を殴れっ!と言いたくなるが)という恐ろしいことまでしている。そんな彼女を事件後に製作した心境はどういうものだったのだろうか?それとも製作年代が間違って伝えられているのか?
ローマでの巨大な成功は大勢の敵を産むことにもなり、有る事無い事言われて大きなプロジェクトから外されるという、彼には受け入れ難い状況をどうやって乗り越えたのか?それはひたすら制作に励むことだった。「真実は時が明かしてくれる」というこの像には、時の翁はいない。女性の裸体(この像はチェーザレ・リーパの図像学辞典に載っている「真実」の像)だけが作りたかったように見えてしまう。
自分は最大の天才だと自認していても、自らの作品を決して褒めることはなかったというベルニーニが唯一傑作としたのが、聖アンドレーア聖堂だった。妻の死後篭ったのも、馬車馬の如く働き詰めの人生で、ほっと一息つくときもこの聖堂へ来た。この聖堂はローマに無数にある絢爛豪華な巨大聖堂の中で、訪問順位はかなり低い聖堂だが、私も初めてここを訪れた時その美しさに驚いた。知らない内に舞台に上がってしまったような感覚に襲われる。空間の全てをデザインした、まさにバロック芸術の宝石箱。
ローマへ行く前に読みましょう。断然印象的に街が見えてくるはず。
ローマの街自体がベルニーニの巨大な記念碑なのだから。